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Grid and Vidar

1 - オーディンとグリード

ある日グリードは、家の窓から、一羽のカラスがどこからか飛んできて、枝に止まったまま動かないでいるのを見つけました。彼女にはそれがただのカラスではないことがすぐにわかりました。魔術に長けていた彼女は、ひと目でこのカラスに特別な力があることを見抜いたのです。

それからほどなくして、グリードの家にお客がありました。それは人間族のひとりの夫人で、グリードは巨人族でしたが、種族を違える相手であってもまったく問題なく友人づきあいをすることができました。

「あなたに会いたいというお方が、この国を出て東へ少し行った川のほとりで待っておられるわ」。

夫人は用件だけ言うと、家にも上がらず帰ってしまいました。グリードもすぐに支度をして、家を出ました。

言付かった場所まで来てみると、そこで待っていたのは人間の男でした。それはちょうど、あのカラスの羽のような色の外套を着て、大きな帽子を被っていたのです。油断のない目つきでグリードを見る彼が、やはりただの人間でないことは、グリードにはすぐにわかりました。

「あんたがグリードさんかね」。

向こう岸から男が言いました。

「遠くまで出向いてもらって申しわけのないことだ。ほかの巨人どもには会いたくないものでね」。

それから川面に眼をやり、

「ところでこの川には橋がない。どうにかこちらへ渡ってきてもらう手はないだろうか」。

と言いました。そこでグリードは、不思議なことに橋が消えていることに気がつきました。

「お話ならここでお聞きしますわ」。

グリードが呼びかけると、男は

「いいやそうはいかない。わたしはあんたに頼みがあってきたのだから」

と答えました。どうしても、川を渡ってきてくれと言い張るのです。

少し考えてから、グリードは言いました。

「わかりました。今からそちらへ参りましょう。でも、どうかお願いがあります。わたしが良いというまで、背中を向けていて欲しいのです」。

「そんなことか。あいわかった、では待っているよ」。

男は素直に向こうを向きました。そこでグリードは、髪に巻きつけてあったリボンをほどいて右手に持ち、軽く息を吹きかけました。すると草色のリボンはするすると伸びて、あっという間に向こう岸まで届きました。それだけではありません。届いたと思ったらそれは立派な吊り橋に姿を変えていたのです。こうしてグリードは、橋を渡り始めました。

ところが向こう岸に着いたグリードの前に、今度は高い崖が現れました。グリードは、また少し考えてから、靴を片方脱ぐと、軽く息を吹きかけました。すると木靴は高い梯子になりました。そうしてグリードが崖の頂上に着くころ、彼女が見上げると、大きな黒い鷲がこちらをめがけて飛んでくるのが見えました。彼女はとても高いところまで登ってしまったので、飛び降りることができません。そこでとっさに白い靴下を脱いで、息を吹きかけながら放り投げました。すると靴下は白い大きな鷲になって、黒い鷲めがけて飛んでいきました。黒い鷲は、びっくりした様子で逃げていきました。

こうして、長い髪を下ろして、片足だけ裸足になった格好のグリードが、ようやく崖の上まで上がってくると、帽子の男はちゃんと背中を向けて待っていました。

「約束を守ってくれてありがとう。でも、その懐に隠した靴下はわたしのものですから、どうか返してください」。

グリードがこう言うと、男はこちらを向いて、懐から白い靴下を出しました。

「なるほど。あんたの魔法がこれほどのものとは、恐れ入った。わたしが橋を取り去ったのも、崖を作ったのも、黒い鷲に化けたのも、みんなお見通しだったんだね」。

「ええ。ぜんぶわかっていてここへ来たのですもの。あなたがわたしの友達に化けていたこともね」。

すると男はすっかり感心した様子で、自分のカラスをグリードのところへ遣いにやったことも白状しました。それから、

「わたしはアースガルドのオーディンだ」。

と言って、自分の正体を明かしました。

「天晴れなグリード、なぜお前は自分の正体を隠して暮らしているのかね? お前が魔法使いであることは誰も知らない」。

「ええ、オーディンさん。もしもあなたのような方が、巨人たちの首領だったなら、わたしはこうして日陰暮らしなどしていないでしょう。あなたがヴァナヘイムの魔法使いたちをアースガルドへ迎えたように」。

「うむ。わたしは、自分に必要なものは、たとえどんな手を使ってでも手に入れるからね。異を唱えるものには黙ってもらうのだ」。

「あなたはわたしの魔法がどれほどのものか試しにいらしたのでしょう?」。

「ああ、賢いグリードよ。お前が川を渡り、崖を上り、大鷲から逃げ延びてここへやってくることができなかったら、わたしはこのまま帰らなければならなかった。しかし、おまえは見事わたしのところまで来てくれた。わたしはお前に適う魔法使いに会ったことはないし、おまえほど賢い巨人も知らない」。

オーディンはまっすぐにグリードの顔を見つめました。するとグリードは、彼が片目であることに気がつきました。

「そうだ。この右目は──すべての知恵と、未来を知るための犠牲になった。その知恵がわたしに教えたのだ。巨人の町のはずれに住む魔法使いに会いに行け。彼女の息子こそは、お前が去ったあとの世界を譲り受ける男になると」。

「そんな日が来るなんて、わたしには考えられないわ」。

グリードは、オーディンの言葉を聞いて急に悲しくなり、涙をぼろぼろこぼしました。

「それは遠い遠い未来のことだ。しかし逃れようもなくやってくる。おまえとわたしの息子は、すっかり成長するまでにとても時間がかかるだろう。彼がその役目を果たすに足りる男になったそのとき、わたしの最期がやってくる」。

みずからの死を語るオーディンの声はとても穏やかでした。グリードは、

「それじゃあ」

と、小さな声でつぶやきました。でも、その先を彼女は言いませんでした。魔女グリードには未来を見る力もありました。そして未来を見る者は、それに逆らってはならないこともよく知っていました。もし自分が、オーディンの息子を身ごもることをあくまで拒むなら、オーディンは死から逃れることができるかもしれないと、グリードは考えたのです。しかし未来を知る者グリードは、それを言うことはしませんでした。そのかわりに、オーディンの子を生むことを承諾したのです。

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