鉛筆で描く
もっとも身近な画材ともいえる鉛筆(えんぴつ)。
”絵を描くとき”の扱い方は、字を書くときとはちょっと違います。
濃淡の表示。下から7H、5H、 F、B、3B。
画材屋(あるいは文具店)さんの鉛筆売り場に行くと、 同じメーカーやブランドでも、そのなかで さまざまな種類の鉛筆が用意されていることがわかります。 これは濃淡のバリエーションであり、 「H」と付く鉛筆は硬質で色が薄く、 「B」の付くものは、柔らかくて、 さして力を入れずとも濃い色が出せるものです。 そして、これらにそれぞれ数字が付けられており、 この数値が大きくなるほど、 濃/淡の程度が大きくなります。
さて、鉛筆で絵を描くときは、濃淡の違う鉛筆を いくつか用意しておくとよいのです。 この番号でなければダメ、ということはありません。 硬質なものは精緻な画風に向きますし、 軟質の鉛筆(あるいは木炭)なら、すばやく描くのに向いています。 目的や紙の質、そしてご自分の好みに合った 硬さと濃さを選んでください。
また、絵を描くのに適した削り方がありますので、 これもぜひ挑戦してください。 鉛筆削りなどの器械は使わずに、ナイフなどを使って、 左下の写真のように芯を長く削り出すのです。 この削り方では、体裁を整える必要はまったくありません。 芯先もごく大雑把に削り出してください。この処理によって、 器械削りでは出せない、自然な面白い線が出せるのです。
絵を描くのに適した削り方
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「F」は、もっとも中間に位置する濃さの鉛筆です。 通常はB以上のものを使う方が多いですが、 わたしの場合、このFから始めるのが 長年の習慣になっているので・・・
さて、今回は人物を描くことにしました。まず最初に、大雑把な位置関係を描きます。 とくに描き始めの段階では、 形よりも各パーツの相関的な位置を見るようにしてください。 目の位置や顔の中心線のガイドラインになる、十字の線が顔に 引いてあるのがお分かりでしょうか。 こうした初期段階でのガイド線は、ごく薄い色で引いておけば、 (あとから濃い線が入るので) 最終的に消さなくとも目立たないものです。
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各パーツの位置関係が決まったら、 徐々に詳細部へと手を付けていきましょう。 Fより3段階薄い「3H」で影を付け、 2段階濃い「B」で主要な線を整理しつつ、 重ね描きしていきます。
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今回使った鉛筆の中で最も薄いものは「7H」、 最も濃いものは「EB」という鉛筆です。 ごく薄い鉛筆は、微妙な調子の肌や背景、また シェードの調子を微調整するのに使い、 濃い鉛筆は、黒色の服や、ごくわずかな ポイント部分(耳の周りなど)に使いました。
このように、短い直線をいくつも連ね、 また重ねることで網目状の面を生み出す 塗り方を「クロスハッチング」と呼びます。 角度や線の密度を変えることにより面の凹凸(濃淡)が表現されるもので、 鉛筆やパステルで『面』を描く場合に、 最も一般的とされる技法です。
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クロスハッチングだけでも十分な表現力があるのですが、 今回は背景に「ブレンディング」という別の技法を使ってみました。
ブレンディングは、文字通り紙の上で色を混ぜ合わせる技法です。 パステルなどの軽い画材でよく用いられる技法で、 筆、指、ちり紙、布、あるいは紙を鉛筆状にあつらえた物などを使って、 すでに紙の上にある色をこすったり混ぜたりするのです。 乾いたメディウムならではの技法ですが、霧がかかったような、 ちょうど水彩のウェット・イン・ウェットにも似た 柔らかなテクスチュアをもたらしてくれる技法です。
この絵では、シャープなクロスハッチングと合わせることで、 好ましいコントラストを得ることができました。
※このページの画像は、すべて色調を調整してあります。