Grid and Vidar
6 - オーディンとニヨルズの会話
「これがあなたの世界なら、原因をもって萌芽し、時とともに心の中で育つ憎しみと、車輪となって縦横に走る恨みがからめとる悲しみとが、やがておのずから強大な復讐の炎の糧となり、その火はこの世界をすべて灰にしてしまうだろう。それはかならずやってくる。なぜならすでに種は芽吹いているのだから」。
「風を操る海の神よ、そのときおまえは故郷に戻り、そしておまえの故郷から、わたしの弟は戻ってくるだろう。彼には、ものごとを断じる力が無いかわりに、未来を読み取る力がある。風の行方を知るものもまた、そうなのだ」。
「芽吹いた木がどんな枝をどこへ伸ばすかはわからない。しかしそれは過程の話であって、たどり着く結論はどうあっても変えられない。勇敢なアースの神々は、先の知れぬ道を行くことを恐れないだろう。そしてオーディン、あなたはすべてを請け負うことになる。なぜなら種を蒔いたのはあなただから」。
「かの三人の女たちは、何も知らない我々をだましたのだ。だが我々にもまた、だまされる用意があった。もしもわたしが働きかけなかったら、彼女らは我々になんの力ももたなかっただろう。新たな世界を差し出して見せる旅行者を前にしてなお、我々が自分たちの世界にあくまでとどまり、あるがままの本分を全うすることに満足していたなら」。
「そのとき欲望という絵が描かれた。あなたがたはそれを見た。それはあなたがたにとって、果たされなければならない約束になった。そして彼女らはその絵を破り捨てた。だが、彼女らはその絵を見たのだろうか?」。
「黄金の価値について知ったことは、ほとんどのものにとって喜びであったのだ。そのとき──とりわけ、おまえの美しい娘にとって」。
「わたしの息子フレイが、あなたの見張りやぐらに登って、美しいゲルダを見つけ出したとき、あなたはそこにかつての自分を見たことだろう。だからあなたは、彼が最後の敵を前にして得物を持たない悲劇について、なにひとつ責めることができない」。
「まさにそのときだった。わたしが彼女を失ったことを知ったのは──わたしが彼女に与えたものが、彼女を消し去ってしまったことを。そして、わたしもまた消えたのだ。そのとき彼は死んで、わたしのあずかり知らぬ場所へ赴いた。消えてしまった彼女と仲むつまじく暮らすために。そこはとても平和な場所だ。もし彼が今ここへやってきたとしても、それがかつてのわたしだとは誰にもわからないだろう。死神にすべてを売り渡したこのわたしは、もはや彼とは別人だ」。
「そうではない。あなたは死の何たるかを知っただけで、まだ死に切れないままでいる。そのうえ彼女が戻ってくるのを待ち続け、その夢から逃れることができない自分を、夜ごと呪った」。
「わたしがとある魔女との間にもうけた子が、どんな意味を持ち、いかなる役回りを演ずるか、おまえにわかるだろうか。彼こそは、彼のみが、わたしの秘めたる誓約の証なのだ。だが不思議なことに、たとえどんな知恵者が彼を目の当たりにしたとしても、その正体を暴くことはできない。よって、何人たりとも彼を傷つけることができないのだ」。
「彼の到来を望むものはこの世界に一人もいないだろう、あなたを除いては」。
「けっきょくわたしは、彼女の死体を三度焼いた。けれども死ななかった」。
「彼女が幻であることをあなたが見つけださない限り、彼女は死なない」。
「いや。わたしはこうして、ここに彼女の居場所を作ったではないか、ニヨルズよ。彼女は戻ってきたのだ」。
「そうだ。あなたにはそれはできない。彼女を殺してしまうことは」。
「そこが彼女の居るべき場所なのだ。そしておまえがわたしを呼び戻したのは、そこにわたしの帰るべき場所があったからだ。我々には守るものがある。その勤めを全うできるのは、わたしをおいて他にいない」。
「あなたがたは、かつて守る必要のなかったものを守らなければならなくなっただけだ。そこであなたはまず城壁を巡らし、ドヴェルグに作らせた武器を自分と雷神とに与えた。あなたがたはそれを持って、最後の戦場に立つことになる。もうその絵は描かれているのだよ、オーディン」。
「それは約束されたことなのだ。わたしは彼と誓約を交わした。世界を動かし、その破滅を引き寄せる運命を」。
「ファールバウティの美しい息子は、誰よりもあなたのために働くだろう。彼ほど、あなたの描く絵について知っているものはいない。あなたの木の枝を自在に伸ばすことができるのは──彼が巨人の子だから。そして彼もやがて、故郷へ帰るときが来るだろう」。
「すべてのものは自分が帰るべき場所へと帰還するだろう」。
「そのときあなたの世界は焼け落ち、幻は悲鳴をあげて消え去るだろう」。